京都の伝統を織る



職人たちの「仕事」を一つの「形」に織る織屋

西陣織の製作にはどのように携わっていますか?

僕がやってるのは織屋。完全な分業やからね、西陣は。染屋さんがあり、機(はた)っていう装置を作る綜絖屋(そうこうや)さんがあり、経糸(たていと)を整経(*1せいけい)する人があり、図案を描く専門家がいたり。いろんな職人さんが作らはった材料や道具、金銀糸とか引箔(*2ひきばく)とか、綺麗に染めた糸とかが全部集まってくるのが機場(はたば)。それを最終的に帯に織るのが僕らの仕事。最後の工程やさかいね、ここで失敗したら元も子もないというか。重要なとこを担ってる。

うちは、得意先の委託を受けて織る「出機(でばた)」やから、得意先が持って来はった材料をうちの織機で帯に加工して持って行ってる。

 

*1) 必要な長さと本数の経糸を準備すること。

*2) 引箔:金箔を塗った和紙を細く裂いたもの。緯糸(よこいと)として使う。



京の歴史と共に

西陣織の歴史について教えてください

西陣のほんまの原点っていうのは、5,6世紀に大陸から来た渡来人が京都の太秦の方に住みついて養蚕と織物の技術を教えたことと思うな。そういう人たちがここら辺、西陣に来て土地の人やらと一緒に西陣織っていうのをこしらえて皇室に納めたりとかして、西陣織がこう発展していった。大きな流れはそういうことやな。

 

明治時代に天皇陛下が東京の方に行かはった。遷都して、西陣、京都が疲弊してた。その時、知事さんがヨーロッパから京都にハイテクを取り入れようと、若い人を派遣してジャカード(新しい織物の機械装置)とかいろんなものやいろんな技術を持って帰ってきて。それで西陣の生産も飛躍的に上がったんや。

 


【補足】

5、6世紀に大陸から帰化した秦氏が養蚕、絹織の技術をもたらす。平安時代には、『織部司(おりべのつかさ)』という役所が宮廷用の高級織物の生産を職人に奨励。この官営の織物工房が衰退すると、織物生産に携わっていた職人集団は寺院や貴族など上流階級を相手に織物業を始める。室町時代の応仁の乱で職人たちは地方に散るが、戦乱後、西陣で織物再開。その後高級絹織物としての地位を確立し、日本の絹織物産業の代表的存在となる。

 


自分を変える方法として

西陣織の良さはどんなところですか? 

(ええ帯やええ着物を着ることで)着た人の精神性が変われるようなもの。着ることによって女性が一段も二段もレベルアップされる。帯を締めて、着物を着てもらえることによって、上品で凛とした佇まいを思わすような帯を職人はこしらえる。

 

また一番大事なときに来ていくのが着物。パーティーでもここ一番と自分をアピールできる。その時になんぼええ着物をきていっても、その人の所作がまずかったら台無しにする場合もある。だから、着た人もそれにふさわしい所作や雰囲気を出してもらわな意味がない。その雰囲気を出すのにもまた、着物なり、帯なり(の力)を利用してもらわなあかん。

 

西陣織は高いさかいね。ほんでね、ええもんやないとね、長く伝わっていけへんやん。

僕がいつも勧めんのはええ帯。ええ帯を買うてもらいたい、ええ帯は高いけども、でもその帯は高いだけの工夫も、いろんなこともしてある。

どの時代にあってもその帯が締められるし、ええ帯やなあといってもらえる。パーティーで締めていったらみんなが見はる。

でも、着物と帯が調和されてこそ。 着物が悪かったらええ帯に合わない。帯と着物がバランスようなるのが大事。ええ帯にはええ着物を。相互作用で引き立たせる。

 自分を変える方法としてそういうこと(着物)もある。

 

(今の時代)着物離れしてる。ということは、時代が、緩やかに進んでないわな。着物はそんなことにはそぐわへんよね。(逆に言うと着物は)緩やかな時間を楽しむための道具なんや。



織元と職人たち

出機としてどのような織物を作っていますか?

(まき子さん)

うちには織物を織る機(はた)っていう機械が3台あるんやけど、織る品物の種類が3台とも全然別なんです。ざっくりした振袖とか派手な織物と、緻密なものを織るのと。織機自体はみんな一緒、綜絖っていう機仕掛けが会社ごとに違う。

会社によって、デザイン、色なり、独特の表現の仕方や得意な分野がある。メーカーによって派手な色を得意とするところもあれば、何ともいえないくすんだ色合いを出すところもある。経糸の使い方を錦織のものに変える。会社独特の装置や組織(織り方)をつくってはる。そうやって、そこの会社のカラーを出して職人に要求する。その組織を目指してはるので、こちらも技術を磨いてそれについていかないと。

各分野の職人たちの技術はどのようなものですか?

ホントに技術のある人で西陣は支えられているわけや。図案書く専門の人がいはる。それを織物で織れるように、他にも専門の人が杼箱にどれを入れたらいいか考えて、あれを書く人がいはって。専門専門がいるわけや。せやさかい、良いものができる。(それを)会社が仕切りはって。会社はいわば、指揮者や。コーディネーター。そういう人たちがなくなったらえらいことなんやけども。僕らは材料あってこその加工ができんねん。材料作る人がいなくなったらどうすることもできひん。それを自分でせえってそれは無理や。例えば、(西陣織に使う糸の)染めにしても、半年、一年で染めれるようになったり、格好はできてもな、黄色が全く同じ黄色にできるかは難しい。濡れたときと乾いた時で色が違う。織物も色むらが個性になる場合もあるけど、西陣織の場合、色むらでたら怒られる。全部均一に。こんなん絶対できひん。職人がいなくなったらできひん。凄い織物ができるっていうのは、それぞれの苦労が結集したおかげ。



ただ機械で「織る」わけではない

一見、機械が自動的に織っているようですが、織屋にはどんな技術が求められますか?

織る技術は、糸を入れてがちゃっとおるわけではない。金糸と細糸とでゴムもかえないと。基本は糸結びができるかどうか。織るのは機械任せやけども、この調子とバランスを取ったらへんかったらすらすら折れへん。帯はどうしても曲がる。知らん人間がまたやったら全然あかんわの。それに糸がなくなったら止まるやろ。なくなったら止めて入れ替えて。機械が織ってるいっても人間が操作したらな。一回いっかい、そこでどうするってことを判断していかなな。機械が織るけど、それをちゃんと織るように動かす。それが職人さんの腕やね。

あとは、杼の調整。糸を巻くとかのテンション(糸の張り具合)の加減。抜きは張ってるけど、織れた状態で弛ます。それが1番問題。張った状態だと、寄ってきてしわになる。しわになるのを読んで、最初から弛ます。でもたるますだけでは模様がギザギザになって見えない。いい感じにするのが技術。